2019年

 

   早春

  前髪を上げ早春の銀座まで

    加藤あけみ

 

  海藻の森くらくらと春めきぬ

    種田果歩

 

  大股で歩く早春の風の中

    林田麻裕

 

   馬酔木の花

 

  たたら踏む音の静けさあしび咲く

    中林明美

 

  真昼間を馬酔木の花が音たてる

    鈴木みのり

 

  馬酔木咲く鬼ごつこ逃げろ逃げろ

    おーたえつこ

 

 

     風薫る

 

   街路樹はキリンの歩幅風薫る

     土肥あき子

 

   風薫る犬山でんでん笛太鼓

     小山佳栄

 

   風薫る廊下に十(とお)のお弁当

     辻 響子

 

 

     昼 寝

 

 くの字から大の字になる昼寝かな

   永 六輔

 

 亡き猫の胸に重たき昼寝覚

   松井季湖

 

 一村が昼寝したまま水の底

   波戸辺のばら

 

     

 

  棒切れで打つ三塁打柿熟るる

    ふけとしこ

 

  ころ柿や母の電話はすぐ切れて

    波戸辺のばら

 

  柿食ふや何を食べてもよき病

    畑田保寿美

      蜻蛉

 

  とゞまればあたりにふゆる蜻蛉かな

    中村汀女

 

  達筆の一膳飯屋とんぼ来る

    種田果歩

 

  セルフ給油終えてトンボの宙返り

    笹村恵美子

    

 

 ふきげんというかたまりの冬の犀

   坪内稔典

 

 何の日もだろう真冬の昼明かり

   辻 水音

 

 開け放つ冬のお座敷笑い声

   火箱ひろ  

 

    枯蓮

 

  枯蓮のうごく時きてみなうごく

    西東三鬼

 

  枯蓮に庭園灯のとどかざる

    はしもと風里

 

  大輪の白咲く予定枯れはちす

    おーたえつこ