片付かぬ小さい用事うららかや

 

ポケットにマスクと口紅花吹雪

 

オロナインかニベアで迷う春の朝

 

チューリップ母は老後の真っ最中

 

入園の子の張りきったいかり肩

  

おーたえつこ

  写真えつこ・薬師院の牡丹


 

 

アカトマレキイロチュウイノチューリップ

 

花筏ほっと口開く人面魚

 

摘めるだけ摘んだたんぽぽさてこれを

 

遠浅の海より春の虹うまれ

 

食べるたび浅蜊の砂を噛む男

 

たかはしすなお

   写真すなお・花筏

 


花明り電車がカーブしたところ

 

雲少し白たんぽぽになってみる

 

何となく過ぎた日の暮チューリップ
 醍醐寺
飛花落花傷跡残したまま杜は

 

行く春のジャスミンティーをまた注ぐ

    

   つじあきこ 

       写真あきこ・平安神宮神苑


雀の鉄砲ヘアムースは微香性

 

眼差しの泣くことかよつて花の風

 

生後約三万日ぞ花の中

 

葉桜や石のベンチに名を付けて

 

大屋根の寺紋つやつや初つばめ

 

 辻 水音

春の朝眉引いて私できあがる

 

風光る彼の眉毛に白いもの

 

夜を待ちてあまねく白く里桜

 

若葉風不意に睡魔がおとづれる

 

人形の脚を繕ふ緑雨かな

 

 はしもと風里


 

花種蒔く老人になろう友よ

 

カラオケは六甲おろし桜の夜

 

青空に異国の言葉と桜かな

 

パティシエのきれいなおじぎ花りんご

 

ほのほのと二十歳の記憶鳥の恋

 

波戸辺のばら

    写真のばら・高取城跡


乗客は春の日差しとおじいさん

 

春の昼彼のあくびをつかまえろ

 

父さんの大きな手が好き春の川

 

空っぽのボクシングジム春の朝

 

駅員さんはスリムでスマート春の風

 

 林田麻裕

 

穴を出る蟇も婆あばもどっこいしょ

 

さくらさくら豆腐一丁ぶらさげて

 

桜散るオートミールな朝ごはん

 

温泉卵ちゅるっと春の朝すする

 

花粉症くしゃみしいしいけんけんぱ

 

火箱ひろ


 

家が建つ嗚呼家が建つ地虫出づ

 

風が雨あめが若葉を呼ぶ朝(あした)

 

そこに私はゐるかな母の春の夢

 

きみの肉球やはらかかつたね花の冷

 

とんがつたまんま大人にチューリップ

 

松井季湖

  写真季湖・チューリップ