猫の名はしずく緑雨に濡れていた

 

カタバミが猫の結界薄暑光

 

黒猫の貴婦人のごと座す夏野

 

河骨や恋にピリオド打つ水辺

 

目に青葉思いつかない欲しいもの

 

   波戸辺のばら

 

               写真 のばら


ジェスチャーが大げさな妻青葉風

 

揚羽蝶君から離れそうにない

 

小麦色の肌のじいさん夏帽子

 

ベビーカーの中より夏の香り嗅ぐ

 

風鈴や開店前の二十分

   

   林田麻裕

預かった姉の合鍵柿若葉

 

夏草の草冠は母さんに

 

前向きも建設的もいま昼寝

 

青時雨ココロと鼓動合わす午后

 

短夜や本棚にまた死者ひとり

 

   火箱ひろ


番茶薬茶薔薇茶茉莉花茶

 

梅雨寒をかきわけてくるオトコマエ

 

風薫るすいっと届くEメール

 

夏の空ぱちんと指の骨が鳴り

 

氷菓舐め四才の屈託六十路の屈託

 

     おーたえつこ

 

写真えつこ「届きました。まだ申し込んでいません」

 


ふわふわの母の猫つ毛聖五月

 

顎濡らし猫が水飲む旱星

 

胸騒ぐ波打つ柏葉紫陽花に

 

マグノリア匂へる宵を猫逝けり

 

亡き猫に紫陽花一朶二朶三朶

 

 

   松井季湖

ブカブカの長靴が来た梅雨晴間

 

押し寄せる青葉若葉や引き籠る

 

紫陽花へ寄り道をしてマイバッグ

 

葦原の行間狭し行々子

 

きゅうりもみ蛸の頭が見え隠れ

 

   たかはしすなお

            


揚羽蝶明るい朝の水飲みに

 

どの椅子に座ろ青葉の風のまま

 

梅雨晴れ間羽二重餅の緊張感

 

夏つばめ黄色いリボンそよぐそよぐ

 

間違いはここからプチトマト真っ赤

 

    つじあきこ

      写真 あきこ・ツマグロヒョウモン


「献血車は→」緑陰へ誘導す

 

夕虹やこんがりマルシンハンバーグ

 

茅花流しを霊園のすべり台

 

なまぬるき息吐くロバや額の花

 

サングラス「ボブに切つてくださいな」

 

     辻 水音

土へ還る骨のいとしき薄暑かな

 

月涼し手元にのこす骨小さし

 

葉桜の下ちちははを待つてゐて

 

薔薇の間にめくるひとなきカレンダー

 

極楽や大山蓮華の香の満ちて

 

   はしもと風里